がたろう流KiCadの使い方

はじめに

TTLコンピュータRETROF-16はフリーのPCB作成ツールであるKiCadを用いて回路図と基板を作成しました。基板は自分で片面基板をエッチングし、1穴1穴をミニドリルで穴あけして作成しております。


KiCadは本来は、両面〜多層基板を基板作成専門業者に発注するためのツールですが、手製の片面基板作りにも十分対応できましたので、その報告を兼ねて本コンテンツを作成しました。
ハードの自作は主にユニバーサル基板を使うのでPCBは自作しないという方も、KiCadは回路路図エディタ単体としても使えますので、これを機に「手書きの回路図」を卒業されては如何でしょうか?

初回の内容

第1回はインストールと、回路図エディタを立ち上げるまでの手順です。(数回に分けて報告する予定ですが、2015年6月現在、第2回がいつになるかは全く未定です)
 

【お断り】

本サイトで説明する「KiCadの使い方」は、必ずしもKiCad本来の使い方を説明するものではありません。むしろ「邪道」に近い使い方かも知れません。本方法を試し何か不都合が起きても、筆者は責任を負えません。全て自己責任にてお願いします。

【お願い】 

文中に明らかな誤りや、筆者の勘違い等があれば御指摘頂けますと幸いです。
ツイッターIDを公開しております。(返信の約束はできない事を御理解願います)

インストール

http://kicad.jp/ から最新版をダウンロードできます。インストール自体は特に難しい事もないので、詳細は省略します。以下はインストール時の私の環境等です。

・インストールしたマシンはインテルi3マシン、Windows8.1 64bit版
・KiCadバージョンは2014.05.14(必要なディスクスペースは420.4MB)
・KiCadのインストーラーはKiCad bzr4022-ja Winインストーラ
・言語は日本語を選択(デフォルトで日本語)
・インストールコンポーネントは全て選択。(デフォルトで全て選択)
・インストール先は C:\Program Files (x86)\KiCad(デフォルト)
・インストール時間は10秒ほど(ダウンロードは2分ほど)
・インストールが完了するとデスクトップにショートカットができる
・Win8は新規にインストールされたアプリとして認識し、アンインストールも自由

とりあえず起動して回路図エディタを使ってみる

KiCadのショートカット

インストールするとデスクトップにショートカットができますので、それをクリックするとKiCadが起動します。

ここでの起動は雰囲気を掴むだけにします。
雰囲気を掴んだら、書込等は行わずにKiCadを終了して下さい。


KICADのスタート画面

起動画面には6つアイコンが並んでおり、見た感じで一番左が回路図エディタっぽいので、クリック(ダブルクリックではない)します。


回路図エディタ初回起動時警告

「noneme.schが見つからない」と文句を言ってきます。おそらく暗黙で開く際のファイル名なのでしょうが、初回起動なのでその暗黙ファイルがないのでしょう。
無視して先に進みます。


白紙(背景は黒なので「白紙」は変ですが)の「紙」が出ます。左下はタイトルや設計者の名前を書く所の様です。ウィンドウは上部の他に、左端と右端に多くのアイコンがあります。

背景色の初期値とレジストリに関する補足

パッと見、何をする時に使うアイコンか判らないものもありますが、適当に勘で操作します。

回路図エディタ起動画面

とりあえず、下記の4つのアイコンだけを使うだけでも、Ki-Cadが標準で装備している部品を使って回路図っぽいものは描けます。

拡大 拡大
縮小 縮小
部品配置 部品の配置
ワイヤー ワイヤーで結線


回路図エディタ起動画面

おそらく、標準装備の部品を使ってこの様な回路図っぽいものは「勘」で描けると思います。


何か回路図っぽいものが書ける事を確認したら、一度Kicadを終了します(試し書きしたデータは保存せずに捨てます)。何となく使い方を覚えた様な気になっって、「簡単じゃん!」と先に進むのは基本を固めずに先に進む行為でありお勧めはできません。

回路図エディタを使う前にすべき事

インストール先とインストールされたものを確認

インストール先をデフォのままにすると、Program Files(x86)の下にKicadというフォルダが作られ、その下に様々な実行コードやデータが置かれます。

インストールされたファイル

デフォでは様々な成果物もここに作られる設定ですが、 Program Filesの下に成果物を作ってしまうと、アクセス権限の制約で後々何かと厄介です。(厄介な理由の詳細

そこで、利用を開始する前にちょっとした下準備をしておきます。


成果物を格納するフォルダを事前作成する

どこか管理のしやすい場所(以下の例はドキュメントフォルダ)に、KiCadの成果物(回路図など)を格納するフォルダ(名前は任意、仮にKiCa」とする)を作り、更にその下にプロジェクトの数だけサブフォルダを作ります。

個人の趣味の基板作りの場合は、いきなり複数のプロジェクトを立ち上げる事はないとは思いますが、説明のためここでは、8bitのCPU用の基板を作るプロジェクト「RETROF-8」と、16bitのCPU用の基板を作るプロジェクト「RETROF-16」の2つを作ります。

また、両者のプロジェクトは共通の部品を使用するものとし、その部品を置く「RETROF-PARTS」というフォルダを作ります。

インストールされたファイル

これらのフォルダは、KiCadではなく、Windowsのエクスプローラーで作ります。

左図の3つのフォルダは中身が「空」であることが必要です。万一操作を間違えてやり直す際は、必ず空で有る事を確認してください。


自分専用の部品ライブラリの作成

インストール時に付属する標準の部品ライブラリだけでも、かなり複雑な回路図を描けますが、やはり自分専用の部品ライブラリを作ってカスタマイズしながら使った方が便利です。

自分専用の部品ライブラリをゼロから作ることも可能ですが、ここでは標準部品ライブラリから、先ほど作ったフォルダ(RETROF-PARTS)にコピペすることで作成します。コピー元はインストールフォルダ下の「share」の下の「library」です。

「share」の下の「library」の下にある全てのファイルをコピペする必要はありません。但し、拡張子がdcmのファイルと、libのファイルを必ず一緒にコピペして下さい。
私は74シリーズの標準ロジックを多用するので、74xx.dcmと74xx.libの2つファイルのみをRETROF-PARTSの下にコピペし、コピー先のファイル名をRETROF.dcmとRETROF.libに変更しました。ファイル名を変更するのはオリジナル(コピー元)のファイルと間違えるのを防ぐ為です。名称変更は必須では有りませんが、以下はこの名前に変更をしたものとして説明を続けます。 

インストールすると付いてくる部品ライブラリ

【コピー元フォルダ】
拡張子domのファイルには部品の説明が、拡張子libの方には部品の形状等が格納されています。


コピー先の部品ライブラリ

【コピー先フォルダ】
74xx.dcmと74.libの2つファイルをコピーして、ファイル名を変更した後。
両者ともテキストファイルですので、メモ帳などで開いて、中身を見るのも勉強になると思います。


プロジェクトを作成する

以上の準備が完了したら改めてKicadを起動し、プロジェクトの作成を行います。(先程行ったプロジェクトのフォルダ作成は、プロジェクトの「置き場所」を作成しただけでプロジェクト自体はまだ作成されていません)

新規プロジェクト

プロジェクトの作成は左のアイコンのクリックで開始します。フォルダを先ほど作ったフォルダ(「RETROF-8」または「RETROF-16」)とし、プロジェクト名もフォルダと同じ(必ずしも同じにする必要はないが、同じにしないと混乱する)にします。 

 

プロジェクト作成ウィンドウ

プロジェクトの作成場所(左記のウィンドウの上部に表示される)が自分で作ったフォルダであることを必ず確認してください。



プロジェクトを複数作る場合はこの操作をプロジェクトの数だけ繰り返します。

自分だけの部品ライブラリの初期状態を作る

KiCadはプロジェクト毎に使用する部品ライブラリを指定できます。デフォルトでは様々なライブラリを選択する事が可能ですが、ここではあえて「標準ロジックIC」だけが含まれているライブラリを作成し、そのライブラリのみを指定します。
「標準ロジックIC」以外の部品(抵抗やコンデンサ等)は、このライブラリに随時追加していくことによって、「自分だけの部品ライブラリ」を育てていく使い方です。

以下に手順を示します。(複数のプロジェクトがある場合は、この操作を繰り返します)


プロジェクト作成ウィンドウ

部品ライブラリを指定するプロジェクトが選ばれている事を確認します[1]。違う場合は[ファイル][プロジェクトを開く]でプロジェクト指定します。

[2]のボタンで回路図エディタを起動します。初回起動時は「xxxx.schが見つかりません」と警告が出ますが無視します。

回路図エディタにて、[設定(R)]→[ライブラリ(L)]を選びます。


プロジェクト作成ウィンドウ

[1]の領域には部品ライブラリのパスが検索優先度順に並んでいますが、このパスは利用しないので、ここの情報は無視して構いません。
[2]に20個ほどのライブラリが並んでいますが、これをすべて削除します。
(シフトキーを押しながら選択することでまとめて選べます)
[3]の追加で、先ほど作成した部品ライブラリのパス(ドキュメント\KiCad\RETROF-PARTS)を指定します。「相対パスを使用しますか?」と尋ねてくるので「はい」を選びます。
[4]の追加で、RETROF.libを選びます。

 ライブラリがRETROFのみになればOKです。
再設定後のライブラリ一覧


この状態で可能なことと次にすべきこと

ここまでの設定でできる事

ここまでの設定でRETROFという名前の部品ライブラリ(74シリーズの標準ロジックしか入っていない。抵抗もコンデンサもありません)のみを使う回路図(実際には有り得ない)ならば、描く事ができます。

ここから先にすべき事

実際に回路図を描画できる様になるためにすべき事は2つあります。

1つは当然のことながら、この回路図エディタの使い方の詳細を覚える事です。これに関しては、回路図エディタの上部と左右にある「アイコン」の意味さえ覚えれば、さほど難しくはないと思います。これらのアイコンの意味は「KiCad 使い方」等で検索すると、先輩諸氏の様々な解説を得ることができます。

もう一つは、今回作成した「自分だけの部品ライブラリ」の育て方を覚える事です。次回はこちらの方法(追加、削除、オリジナル部品の作成方法など)をメインに語りたく思います。
但し、本ページ冒頭でも申しましたが、いつになるかはわかりません。

(2015年6月7日)

以下は補足説明です。

本文からのリンクになっています。ここを単独で読む必要はありません。

【補足説明1】回路図エディタの配色とレジストリに関して
 
KiCadはレジストリを使用します。回路図エディタに関するレジストリは
「コンピュータ\HKEY_CURRENT_USER\Sofyware\KiCad\eedchema」に格納されています。他の情報はテキスト形式で普通のファイルとして保存されるのに対し、何故か色情報はレジストリです。例えばレジストリ項目の「BgColor」は背景色を意味し、15(16進表記だとF)で白、それ以外で黒となります。

勿論、色の設定は回路図エディタの[設定(R)]→[カラー(C)]から変更できますので、レジストリを操作する必要は全くありません。本補足説明は、色の設定情報は他の設定情報と異なる方法で管理されて事を伝えるために書きました。
【補足説明2】Program Files(x86)というフォルダに関して

起動ドライブ(一般にC:)の下にあるProgram Files(x86)というフォルダは、Windows Vista/7/8/8.1の64bit版をインストールしたPCにのみ作成されます。このフォルダは32ビット版のアプリケーションを格納するための領域で、64ビット版のアプリケーションを格納する領域(Program Files)と明確に区別できる様に設けられています。KiCadは32ビット版のアプリケーションとしてインストールされますので、インストールされたファイル群はProgram Files(x86)\KiCadの下に展開されます。

Program Files と Program Files(x86)の下位領域はVista以降、セキュリティ強化対策であるUser Account Control(略称:UAC)の管理下に置かれ、管理者権限が与えられているユーザーでも、一般ユーザーと同じく、ファイルの書き込みができない等の強い利用制限がかかる領域となりました。
 
KiCadをインストール後、ユーザーが作成した回路図のデータ等は、デフォルトではこの Program Files(x86)の下に作られる設定になっています。しかしWindowsは、Program Files(x86)の下にユーザー作成のデータを置く事を禁止しています。ですからWindowsはKicadに対し、この場所に作ったように見せかけて、実は別の場所(本補足末尾参照)に ユーザー作成データを置きます。
 
このため、KiCadから見た場合は様々な成果物を作ったように見えても、エクスプローラーを起動して Program Files(x86)\KiCadの下を覗いても「作ったはずの成果物が何もない」という現象が起きます。
この手法自体はインストールしたアプリをバージョンアップする際に、旧バージョンを丸ごと削除しても、ユーザーデータを保全できるという素晴らしい仕組みです。しかしその一方でアプリが推奨する方法ではなく、直接各種ファイルを操作して自分なりの開発環境を「手っ取り早く」作成したい者にとっては何かと面倒になるのは事実です。

これは、どちらの方法が良いとか悪いとかの問題ではなく、好みの問題です。全てデフォルトの位置に作成する方が良いと思う方も大勢いるかと思いますが、本文ではあえてその逆の方法を紹介していることを御理解願います。

(参考)以下は、Program Files(x86)\KiCadの下に作成したつもりのファイルが実際に置かれるパス)
    C:\ユーザー\ユーザー名\AppData\Local\VirtualStore\Program Files(x86)\Kicad