0Ω抵抗の都市伝説

0Ω抵抗は確かに存在します

100本入り0Ω抵抗

画像が0Ω抵抗の100本詰め合わせです。秋葉原の秋月電子で購入したものです。(100本で100円)。

0Ω抵抗の話をすると、必ず「んなモノ、あるわけない」と言い出す方が稀におられるので、あらかじめ画像を貼っておきます。もちろん、この0Ω抵抗はレア品でも特注品でもありません。普通の抵抗と同様に普通に売っているものです。


本当は0Ωでは無い → 0Ωではありません。でも十分0Ωです。

実物を見せても「0Ω抵抗は本当は0Ωではない」とか、「本当に0Ωならそれは抵抗とは言えない」と言う方もおります。もちろん、本当に電気抵抗が0になる超伝導(超電導とも言う)の部品が1本1円で市販されている訳がありません、0Ω抵抗と言っても、厳密には0.01Ωとか0.001Ωとかの抵抗値はあります。ちなみにプリント基板の銅箔パターンは厚さ35um物を幅0.5mmで引き回すとmあたり1Ωほどの抵抗となります。それと比べると、0Ωと言っても良い程度の微小抵抗値です。

何が都市伝説なのか

0Ω抵抗は確かに存在しますので「0Ω抵抗は存在しない」と信じる人がいる事自体は都市伝説ではありません。それは単なる「不勉強」です。

ここで都市伝説となるのは0Ω抵抗の「存在」ではなく、0Ω抵抗が存在する「理由」に関してなのです。

「0Ω抵抗はヒューズの役目」という都市伝説

0Ω抵抗ヒューズ説

「0Ω抵抗を回路に設置しておくと、回路に過電流が流れた時にこの抵抗が切れて、他の部品を電流破壊から守ってくれる」という都市伝説。この説の信者は意外に多いです。

しかしこの説は真っ赤なウソです。0Ω抵抗は数アンペア程度の電流なら問題なく通します。数10アンペア程度になって初めてリード線と抵抗本体との接合部辺りが熱を持ち、焼き切れます。しかし数十アンペアという値は普通のトランジスタやICはもちろん、 プリント基板の銅箔の方が先に吹っ飛んでしまう大電流ですので、部品を保護するヒューズの代わりには絶対になりえません

では何故「0Ω抵抗はヒューズの代り」という都市伝説が生まれたのか?

現代では、半導体による回路保護が一般化したため、基板上にヒューズを設置することは稀ですが、昭和の時代は高級部品を不測の事態から守るために、基板上にヒューズを設置する回路設計者は少なくありませんでした。

しかし、製品の品質が向上し、基板上のヒューズが切れることが殆どなくなり、万一基板上のヒューズが切れても、ヒューズを取り替えるのではなく基板そのものを交換してしまう修理法が当り前になると、 基板上のヒューズは製品コストを上げるだけの代物になってしまったのです。

そこで、本来ならヒューズを設置する代わりに0Ω抵抗を挿入してしまう方法がとられるようになりました。これならば、各種設計資料やPCBのアートワークを殆ど変えずにコストダウンが可能になるのです。

ここからは私の想像ですが、昭和のある時期に多くの会社の製造現場で「ヒューズの代りに0Ω抵抗を入れてコストダウンしろ!」と言う号令がかかったのではないでしょうか。
熟練技術者ならその意味は当然判りますが、 若手技術者の中には「0Ω抵抗ってヒューズの代わりになるんだ」と勘違いした者がいたとしても不思議ではありません。

おそらく、当時のそんな「勘違い技術者」が、現在の「0Ω抵抗ヒューズ説」の中核を成しているのではないでしょうか?

0Ω抵抗 V.S. 単なる電線

0Ω抵抗より、電線の方が安いのに…

確かに1本一円にも満たない0Ω抵抗といえども、単なる銅線や錫メッキ線の方が安価です。それなのに電線を使わずに0Ω抵抗を使うのは何か特別な理由があると考えるのは当然です。

前述した「ヒューズ説」の次に多いのは「見栄え説」と「切断説」です。

見栄え(みばえ)説

「見栄え説」というのは、沢山の抵抗がPCB上に並ぶアートワークで、一箇所だけ抵抗の代りに直結線ががあると「見た目がカッコ悪い」という理由から、0Ωにするという説です。
しかし、市販量産品、ましてや外から直接見えないPCB上のデザインにそんなことを考慮するプロは絶対におりません。個人の趣味でワザとPCB表面を可視とした作品ではあり得るかもしれませんが、実際にそのような作品は見たことがありませんし、実際にあったとしても極めて稀な作品だと思います。

どなたか、基板の見た目の美しさ維持の為だけに0Ω抵抗を使用した作品の存在を御存知ならば教えてください。

最終試験説

量産品であっても、テレビの様に1台1台最終チェックする製品もあります。この時、PCB上の回路の2点を0Ω抵抗でショートさせておくことにより「セルフチェックモード」となるような設計を施しておき、検査員は「セルフチェックモード」の結果を目視確認後、その抵抗をニッパで切り落とすことにより、「出荷モード」になる、という説です。

確かに、PCBのアートワークをカッターで切断したり、裸のジャンパー線を「摘んで」切るよりも、抵抗の両端をニッパで「パチンパチン」と切るほうが作業は楽そうです。しかし、昭和の時代ならともかく、超精密機器とも言える最近のTV製造現場で、こんな「野蛮」な方法を行うわけがありません。

但し、試作品や開発途中のプロトタイプにおいては、一流メーカーであっても、この様な「野蛮」な方法もアリなのかもしれません。実際に試作開発部門などに所属され、上記の経験をされた方おられましたら、是非情報ください。

0Ω抵抗が存在理由の真相

電線の変わりに0Ω抵抗を使う理由はただ一つ。「マウンタ(プリント基板に部品を実装する機械)の中には裸の電線に対応していない機種がある」と言う事実です。ですから、本来なら裸の電線で済むのに、わざわざ0Ω抵抗を使うのです。もちろん、裸の電線をマウントできるマウンタを導入すれば解決する問題ですが、何故そうしないのかは説明する必要もないと思います。

個人の趣味の電子工作としての0Ω抵抗

0Ω抵抗の製造メーカーもマウンタのみを対象にして製造しています。 マウンタを所有していない「個人」にとっては0Ω抵抗は意味の使い道のない代物です。

しかし、個人の趣味としての電子工作愛好者の一部には、どんな部品であっても、その部品のメーカーが想定していなかった使い方をする方がおります。もちろん製造者にとって想定外の使い方をするのですから何の動作保証も無く、場合によっては感電や火災の危険すらあります。
滑落の危険を十分に知り尽くしているのに山壁を登る登山家の様な人達です。

ブレッドボードのジャンパー線の代りに使う

これは結構あるようです。普通の錫メッキ線でも良いのですが、両端を曲げる時の長さの把握がしやすいのは事実ですし、抜き差しも裸線よりも容易です。(筆者実体験あり)
「0Ω抵抗 ブレッドボード」などの言葉で検索すると、先輩諸氏の実例をいくつか見る事ができますので、ここでは詳しい説明は省略します。

単なるジャンパー線の変りに使う。

ブレッドボードの場合は、多少なりとも意味がありましたが、PCBやユニバーサル基板の場合は電線の代わりに0Ω抵抗を使う理由は全くありません。しかし世の中には、目的もなく興味本位で0Ωを買った人や、趣味としての電子工作派向けに発売されている「各種抵抗詰め合わせセット」の中に0Ω抵抗を発見した人も結構いると思います。この様な方々にとっては既に0Ω抵抗が自分の手元にあるのですから、何かに使わないと損(モッタイナイ)です。「ジャンパー線の代わりに使っちゃえ」と考えることは至極自然な行為だと思います。

半固定抵抗の代わり

アナログもシミュレータによる設計が当り前となった現在では有り得えないと思いますが、個人の趣味なら固定抵抗をアレコレと取り替えてみて最適値を決めることは多々あると思います。特に複数の抵抗を直列にする事により微妙な値を作る(1MΩ+20KΩ=1.02MΩ等)場合に、たまたま一方が0Ωとなってしまい「ココは細かく調整した結果、偶然0Ωになったのだ」ということを強調するために0Ω抵抗を置く事はあると思います。

終わりに

分解した0Ω抵抗

0Ω抵抗を「分解」してみました。普通の抵抗は、炭素粉を絶縁性の糊で固めたペレットをリード線で挟んだ構造をしています。当初私は、0Ω抵抗は単なる「電線」に、抵抗に見える様に樹脂等を付着させた物だと思っておりましたが、実際には「炭素糊ペレット」の代わりに「銅のペレット」を使っていました。
おそらく、他の抵抗より原価は高いのではないでしょうか。

上が0Ω抵抗(カラーバーは黒帯が一本のみ)。下は2KΩ(赤赤黒金)。いずれも1/6W。

つまらないことでも、少し気合をいれて調べてみると意外な事実がわかり楽しいものです。
今回この頁に書いたことのすべてを真実だと言い張るつもりは毛頭ありません。実際はここに書いたこと自体が「都市伝説」なのかもしれません。明らかな誤りなどがあれば、御一報頂ければ幸いです。

(2011年10月、2013年一部改変、2015年一部修正)