メインページに戻る

本当の意味でのコンピュータの自作

私事で恐縮ですが、1970年台前半の私は週末になると電子部品の販売店に出かけてはリレーやトランジスタを購入し、加算器やフリップフロップの製作を楽しんでおりました。 もちろん当時の私の職業とは全く関係の無い個人の趣味としての製作です。元々アマチュア無線のリグ(送受信機)の自作をしていたのですが、安くて高性能のリグが市販されるにつれ、リグの自作に限界を感じ、何か新しい自作対象が欲しくなっていた時期でした。

トランジスタ技術の宣伝当時、トランジスタ技術などの専門誌に個人が趣味として作ったコンピュータの記事が連載されておりました。諸先輩の自作記事に私も強い影響を受け、加算器やフリップフロップ単体ではなく、コンピュータを丸ごと作ってみたいという思いが強くなりました。 見よう見まねで、2回ほどオリジナルCPUを搭載したオリジナルコンピュータの作成に挑戦しましたが、残念ながら動作には至りませんでした。

今思えば、ラッチとD-FFの違いや、ファンアウトの意味すら理解していなかったので、自作に着手する事自体が超無謀でした。

写真は1970年代初期のトラ技の広告です。(トラ技に掲載された公告ではなく、トラ技自身を紹介する公告です)


70年代末、私が3度目の手作りコンピュータへの挑戦を考えていた頃、日本は第二次オイルショックから復活、仕事が急に忙しくなり自作計画は頓挫。その後、家庭を持つに至り、家族を食わすのが精一杯の生活、いつのまにか自分の趣味が「コンピュータの自作」である事すら忘却の彼方となりました。

1990年前半には、市販パソコンを購入し、普通に使う生活でした。その後何回かパソコンを買い変えましたが、2007年から自宅のパソコンは(予算上の都合で)市販品ではなく、ATX自作パソコンにしました。それ以降も身内や親戚用も含め何台かのATXパソコンを自作しました。

しかし自作と言っても、ATX規格に従った部品を10個ほど買って接続するだけの作業です。
ATXパソコンを組み立てるたびに「これは自作じゃなくて自組だよな」という欲求不満にも似た不思議な感情がどんどん大きくなりました。 

「そういえば昔、自分はコンピュータを作るのが趣味だったよな」と思い出したのが2011年。
その後は「昔、やり残した、本当の意味でのコンピュータの自作をしたい…」という思いが日に日に強くなっていきました。 

TTLコンピュータの自作を決意した日

前述の「もう一度TTLコンピュータの自作に挑戦したい」という思いは日に日に大きくなりましたが、それだけでは、自作着手には至らなかったと思います。

ところが、2011年の1月、全くの別件で、電子部品の通販サイトを眺めていたとき、偶然TTLの欄が目にとまりました。なんとTTL各型番の欄が軒並み製造終了・残り僅か・在庫のみとなっていたのです。 特に、コンピュータ作成に必須な同期カウンター(74LS569等)や、ALU(74LS181等)はほぼ絶滅状態でした。

「これはまずい。これ以上先送りしたら作成どころか、部品入手すら不可能になってしまう」

何とも言えない焦りのような気持ちが心の中に生まれてしまい。とりあえずラフスケッチ(予備設計)だけでも行い、必要なTTLを確定、購入だけでも済ませようと決意するに至りました。

なぜTTLなのか? 真空管やトランジスタでは無理なのか?

真空管規格表とTTL

ここで、なぜTTLなのかという問いに答えておきたいと思います。
個人の趣味の範囲で市販のCPUを使わずに、オリジナルのアーキテクチャを持つコンピュータを作る場合、どんなアプローチがあるのかを考えると答えは自明だと思います。  

下記の表は、とりあえず私が思い付く範囲でのコンピュータ作成方法を主な使用素子別(注1)に比較・分類したものです。

主たる素子 主な使用素子 必要素子数 部品
入手
設計
技術
製作
時間
保守性
(再現性)
性能 備考
機械 特殊歯車 数百個 × × × △磨耗 ×  専用工作機械が必要か? 
真空管 双三極管 数千本 × × × △寿命  大電力を消費、事実上無理
リレー 多接点リレー 数百~数千個 △接点  製作可能だが高性能は無理
パラメトロン 双眼コア 数百~数千個 △可視性  製作可能だが高性能は無理
トランジスタ トランジスタ 数千本 ×  根性があれば、作成可能?
TTL(注2) 74シリーズ等 数十~数百  トランジスタ式よりは容易
マイコン Z80やPIC等 1個+周辺  市販のCPUを使う
自作ATX ATXパーツ 数点~十数点  市販のCPUを使う
FPGA Xilinx等 1個+周辺  VHDL等の言語で開発する。

表を見てもお分かりの様に、市販のCPUを使わないという前提で、個人で作成するならTTL方式かFPGA方式です。(大学のサークル等で「人海戦術」が可能ならトランジスタ式も可能ですが…)

オリジナルCPUアーキテクチャの考察やその検証が主目的ならばFPGA方式が最適です。しかし、私の場合は1970年代のコンピュータを復刻させたいという気持ちもあったため当時は入手不可能だったFPGAの利用は候補から除外しました。

本音を言うと、もし可能なら、私は真空管で作りたかったのですが、残念ながら今や真空管自体が入手困難です。もし新品の双3極菅(1本あれば、フリップフロップが1つ作れる)を1万本寄付してくれる方がいたならば、それらを正しく接続する回路図は引けるかもしれません。

しかし、1万本もの真空管を正しく接続(半田付け)する根性は残念ながら今の私にはありません。
(仮に1万本の真空管を接続する根性があったとても、電源を入れたとたん、家のブレーカーが吹っ飛んでしまうでしょう) という訳で、TTLが唯一の選択肢となりました。

(注1)「主な使用素子」はCPUの作成を対象にまとめたもので、記憶装置(メモリ)に関しては考慮しておりません。

(注2)74シリーズに代表されるTTLを使うのと同様に、4000シリーズに代表されるCMOSロジックICで作るという選択肢もあります。ここではTTL方式とCMOS方式はほぼ同じと考えCMOS方式は表から割愛しています。 

今後の計画

製造着手日は未定です(2011年2月6日現在)。完成できるかどうかも不明ですし、今後この計画がどうなるかは私自身もわかりません。でも、このサイトを通じて、状況をこうしてほぼリアルタイムで紹介することで、少しはヤル気がでるのではとも思っています。

また、自分の考えていることをこうしてサイトにまとめるとで私自身の備忘録にもなると考えました。「何回も考え直した結果が、実は一番最初に考えた方法と同じだった」という様な、設計時にありがちな無駄を排除する効果も期待しています。


札幌五輪札幌五輪が開催されたのが1972年(開催期間は2/3~2/13日)、 そのころ私は関東を離れ札幌市にある藻岩山の麓に住んでおりました。 1971年には、五輪に間に合わせるべく海外との交信用の真空管式のアマチュア無線機を新たに組み立ていた記憶があります。それから丁度40年、ラジオペンチだけは当時のものをそのまま使い、コンピュータを設計している自分が、ある意味不思議です。なんとか札幌五輪の40年後である2012年2月までには、完成させたいと思います。

【2013年3月追記】この時に計画したコンピュータは、2011年8月に無事完成し、円周率を100桁求める事にも成功しました。
(RETROF-8と命名し、回路図等も、本サイトで公開しています)。 この成功に気をよくして、インベーダーゲームができる(つまり、インテルの8080より高性能でグラフィック内蔵の)TTLコンピュータを作ろうと思ったのが2011年末です。そちらの方は今(2013年3月)佳境を迎えております。

メインページに戻る